運がいい人がやっていること
徳を積むとは、人が喜ぶ行いを重ねることです。積むと何がいいかというと、運が良くなる、毎日がもっと楽しくなる、幸せを感じやすくなると言われています。具体的なやり方は6つあって、お金も道具も使わないものから始められます。
このページでは徳の積み方を6つ紹介し、いいことが起こる仕組み、やっているのに変わらないときの原因、徳が減ることはあるのかまで、ひとつずつ解説していきます。
簡単なものから順に並べています。1番と2番は今すぐ始められるもの、3番と4番は少し意識が必要なもの、5番と6番は日常の習慣を変える必要があるものです。
この6つは、植西聰『宇宙銀行 徳を積み立てると幸運が引き出せる』(サンマーク出版、2007年)をもとにしています。
朝起きて鏡の前で口角を上げる、話しかけるときに表情をやわらかくする。たったこれだけで1日の空気が変わります。仏教ではこれを和顔悦色施(にこやかな表情で人に接すること)と呼び、お金がなくてもできる布施のひとつに数えています。費用ゼロ、準備ゼロ。いちばん始めやすい方法です。
「ありがとう」「助かった」「それいいね」。大きな褒め言葉でなくても、相手の存在を認める一言で十分です。仏教では言辞施(やさしい言葉で接すること)にあたります。言葉を変えるだけで人間関係の質が変わるのは、アファメーション(自分に向けた肯定的な言葉がけ)の考え方にも通じます。
友達の引っ越しを手伝う、後輩の話を30分聞く、家族のかわりに買い物に行く。お金ではなく、自分の時間を差し出すことです。忙しい中でやるからこそ価値があります。1番と2番はお金も時間もかかりませんでしたが、3番からは自分の時間を使います。仏教では身施(体を使って奉仕すること)にあたります。
「この人とあの人、合いそうだな」と思ったら引き合わせてあげること。自分の人脈を、必要としている人に渡す行為です。
原典の目次は「ネガティブな返答を、ポジティブな言葉に置き換えよう」。たとえば「無理」と言いそうになったとき、「こういう形ならできるよ」と言い方を変えてみる。反射的に出る言葉を変えるのは簡単ではないので、上級に分類されています。
会議の議事録、排水口の掃除、誰もやりたがらないことを黙って引き受けること。見返りを求めずにやれるかどうかが問われます。5番と同じく上級です。
同書では、この6つを「初級・中級・上級」の3段階に分けています。1番と2番が初級、3番と4番が中級、5番と6番が上級です。
先ほどの植西聰さんの本では、積んだ徳が貯まる先を「宇宙銀行」と名づけています。実在の銀行ではなく、あくまでたとえ話です。
考え方はシンプルで、普通の銀行はお金を預けたり借りたりする場所。宇宙銀行はお金ではなく「徳」を預ける想像上の銀行です。人を喜ばせたり、社会の役に立つことをすると、それが徳として積み立てられていく。そして満期になると、積み立てた徳の量だけの恩恵が「ラッキーな現象」として授けられるというものです。すぐに返ってくるわけではありません。
同書の章タイトルは、初級編が「だんだん運が良くなる預金法」、中級編が「人生がますます楽しくなる預金法」、上級編が「もっともっと幸せになれる預金法」です。
この考え方は新しいものではありません。中国の古典『淮南子』には「陰徳あれば陽報あり」(人知れず善いことをする者には、必ず目に見える良い報いがある)という言葉があり、2000年以上前から同じことが言われ続けています。「陰徳「陰徳」は「徳を積む」の言い換えとしてよく使われる言葉です。
「宇宙銀行」というたとえ話自体は実在の金融機関ではありません。ただし人に親切にすると自分の幸福感が上がるという現象は、心理学の実験で繰り返し確認されています。4,045名を対象にしたメタ分析(Curry et al., 2018)では、親切な行為が実行者の幸福感を有意に高めることが示されました。「いいことをすると気分が良くなる」は、思い込みではなく実測されている事実です。
6つの方法をやっているのに何も変わらない。そう感じるとき、原因は2つ考えられます。
ひとつ目は、まだ十分な量に達していないだけかもしれません。12,998名を8年間追跡した縦断研究(Kim & Konrath, 2016)では、ボランティアの効果は年間100時間(週2時間)以上を継続した人に顕著に現れていました。逆に言えば、それ未満の期間や頻度では効果が見えにくいということです。宇宙銀行のたとえでいうと、まだ満期に届いていない状態です。
ふたつ目は、やったことを自分で忘れている。やってみてほしいのは、自分がした善い行いを書き留めることです。スマホのメモでも手帳でもいい。書き出してみると「私、けっこうやってたんだ」と気づけます。覚えていなければ、どれだけやっていても実感が持てないのは当然です。
「私ばっかり頑張っている」と感じるとき、もしかすると与える相手を間違えているのかもしれません。
ウォートン・ビジネススクールの組織心理学者Adam Grantの研究では、人の行動スタイルをギバー(与える人)、テイカー(受け取るだけの人)、マッチャー(バランスを取る人)の3つに分けています。興味深いのは、仕事で最も成果が低いのもギバー、最も成果が高いのもギバーだということです。
最下位に沈むギバーは「自己犠牲型」。自分の時間もエネルギーも全部人に差し出して、テイカーに搾取されて燃え尽きます。一方で最上位に立つギバーは「与え方を選ぶギバー」。人のために動くけれど、自分にとって無理のない方法を選ぶ。テイカーに対しては境界線を引きます。
つまり、徳を積むこと自体は正しい。ただし誰にでも無条件に与え続けると消耗するだけです。笑顔と言葉を選ぶ(1番と2番)なら自分のコストはほぼゼロ。自分の時間を使う(3番)以上の方法は、相手がテイカーでないかを見てからでも遅くありません。
参考: Adam Grant "Give and Take" (2013), Wharton School. Grant & Rebele "Beat Generosity Burnout", Harvard Business Review (2017).
善い行いと悪い行いは、別々に溜まっています。善い行いをたくさんしてきた人が1回冷たい態度を取ったとしても、それまでやってきたことがゼロに戻るわけではありません。
ただし悪い行いは善い行いよりも1回の影響が大きいです。アメリカの心理学者チームが、人間関係、感情、学習など幅広い分野の研究を集めて分析したところ、どの分野でも「悪い出来事」のほうが「良い出来事」より強く心に残るという結果が出ています。
だからといって、これまでの善い行いが無駄になったわけではありません。善い行いの積み重ねは残っています。ただ、悪い行いの影響が目立ちやすいだけです。気づいたときに、またできることから始め直せば大丈夫です。
参考: Baumeister et al. (2001) "Bad Is Stronger Than Good", Review of General Psychology.
書誌: 植西聰『宇宙銀行 徳を積み立てると幸運が引き出せる』サンマーク出版、2007年3月。文庫版は『運のいい人は知っている「宇宙銀行」の使い方』サンマーク文庫、2014年12月。確認元: 国立国会図書館サーチ / 紀伊國屋書店
日本の心理学の研究で、向社会的行動(人のためになる行動)は「親切」「社会奉仕」「不機嫌の抑制」の3つに分かれることが分かっています。岡山・広島の大学生151名と地方公務員63名を対象にした調査で、仏教の布施の三種と無財の七施を参考に項目を作り、因子分析で導き出されたものです。
おもしろいのは3つ目の「不機嫌の抑制」です。不機嫌な顔を見せない、冷たい目で見ない、悪口を言わない、うそをつかない。やることではなく、やらないでおくことが並んでいます。研究者はこれを日本の文化が反映された新しい因子だとしています。日本では、ネガティブな感情を出さずにいることも、人のためになる行動に数えられているということです。
そして同じ調査の続報に、こんな結果が出ています。向社会的行動が多い人ほど幸福感が高く、ストレス反応が低い。なかでも「不機嫌の抑制」は、抑うつや不安、怒り、無気力のすべてを下げる方向に働いていました。不機嫌を顔に出さずにいるのは我慢のようでいて、実際には自分のストレスを減らしているということです。
この3つの分類にそって、ふりかえり用の12項目を用意しました。この2週間の行動を思い出しながら選んでみてください。
選ぶたびに残高が動きます
親切困っている人の話を聞いたり、相談にのった
親切誰かが喜ぶと思ってしたことがある
親切自分の知っていることを、人の役に立つように伝えた
親切相手の立場だったらどうかを考えて動いた
社会奉仕地域や職場のために、頼まれていないことをした
社会奉仕ゴミを拾ったり、共用スペースをきれいにした
社会奉仕募金や寄付をした
社会奉仕ボランティアや無償の手伝いに参加した
不機嫌の抑制嫌なことがあっても、不機嫌な顔を出さずにいられた
不機嫌の抑制冷たい目つきや態度をとらないよう気をつけた
不機嫌の抑制悪口やきつい言葉を使わないようにした
不機嫌の抑制その場しのぎのうそをつかずにいた
徳のお預り残高(2週間分)
0
満点は24
まだ何も選んでいません。ここが出発点です。
3因子の分類と「不機嫌の抑制」に関する記述は津川秀夫・寺田和永・谷英俊(2019)「向社会的行動尺度の作成(1)」、幸福感とストレス反応に関する記述は寺田和永・津川秀夫・谷英俊(2019)「向社会的行動尺度の作成(2)」(いずれも日本心理学会第83回大会)に基づきます。上記12項目の文言は3因子の定義をもとに書き起こしたもので、研究で使われた尺度そのものではありません。点数は目安です。
徳を積むといいことが返ってくるとはいえ、最近ほんとにいいことがないと感じている方もいると思います。一人で抱えている悩みがあるなら、誰かに話すだけで気持ちが軽くなることがあります。
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徳を積むとは、人が喜ぶ行いを重ねることです。方法は6つあり、簡単な順に、笑顔でいる、言葉を選ぶ、時間を使う、人をつなげる、言い方を変える、面倒なことを引き受ける。最初の2つは今すぐ始められて、お金もいりません。
やってきた善い行いは、必ず自分に返ってきます。まだ変化を実感できていないなら、自分が何をしてきたかを書き留めてみてください。思っていたよりもずっと多いことに気づくはずです。
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